ミヒャエル・エンデ作『はてしない物語』は、魅力的な装丁のハードカバー版と、岩波少年文庫から出ている文庫版、2種類が出版されている。安価で手軽な文庫版があるにもかかわらず、高価でずっしりしたハードカバー版をおすすめするのには理由がある。
本を手にしたときの特別な存在感
あかがね色の光沢、絹のような手ざわりの布張り、2匹の蛇が楕円を描く模様、ずっしりとした厚みのある存在感。子どもの頃、この本を初めて手に取ったときの特別な存在感は、大人になった今も変わることがない。本を手にしたら、読み始める前から物語に引き込まれそう…、そんな不思議な存在感を発している。この特別な存在感が味わえるのは、魅力的な装丁のハードカバーならでは。 読者として司書としてたくさんの児童書を手にしてきたが、装丁も含めて、人生でもっとも心に残っている本の1つだ。
装丁も物語の一部
ハードカバー版最大のポイントは、《物語の中に登場する本と全く同じ装丁である》ということ。
主人公である10歳の男の子バスチアンが読んでいる本は、『はてしない物語』。 そう、今読者である自分が手にしている本を、主人公のバスチアンが読んでいるのだ。バスチアンのいる世界と 、バスチアンが読んでいる本の主人公アトレーユの世界。 2つの世界が2色刷りの文字で分けられ、並行して描かれている。タイトルのとおり、本の厚みのとおり、はてしなく壮大な冒険の物語が繰り広げられる。
バスチアンはバスチアンが読んでいる『はてしない物語』へと入り込み、読者も読者が読んでいる『はてしない物語
』へと入り込む 。この作品の特徴は、読者である自分が本の中へ入っていく感覚。
主人公のバスチアンが読んでいる『はてしない物語』は、まさにハードカバー版の『はてしない物語』
と同じ装丁。この物語の醍醐味である「読者が物語の中に入って冒険する感覚」は、ハードカバー版だからこそ成り立っているもの。装丁も含めて1つの作品に仕上がっている。
読書への自信につながる
本の分厚さからすると一見「児童書には見えない」という声も聞くが、児童書に分類される。 対象年齢は小学校高学年頃から。 私は小学校低学年の頃に母に読んでもらって、夢中で楽しむことができた。漢字にはルビがふってあるので、小学生でも自分で読んで楽しむことができる。
文章量のある本を読めるようになってきた子どもたちに、ぜひ読んでほしい。「こんなに分厚い本を自分で読めた!」という自信を持つことができ、次への読書へとつなげることができる。
大人にとってもしっかり読みごたえがあり、児童書とはいえ本好きな大人をも満足させてくれる1冊。作品世界に引き込まれて夢中になれるに違いない。
まとめ
ハードカバー版最大のポイントは《物語の中に登場する本と同じ装丁》であること。残念ながら文庫版では、その装丁はない。
この物語の醍醐味である「読者が物語の中へ入って冒険する」感覚は、ハードカバー版だからこそ立つもの。装丁も含めて1つの物語として成り立っているため、ハードカバー版で読んでこそ作品世界を味わうことができる。
これから読んでみようと思われる方には、ぜひ文庫版ではなくハードカバー版で読むことをおすすめしたい。ちょっと躊躇してしまう価格かもしれないが、一生モノの本となるに違いない。
魅力的で特別な装丁は、プレゼントにも喜ばれる。
大人も子どもも夢中になれる、冒険ファンタジーの名作中の名作。
本の情報
ミヒャエル・エンデ/作 上田真而子/訳 佐藤真理子/訳 1982年 岩波書店 590p 23cm ドイツの冒険ファンタジー 対象年齢:小学校高学年頃から大人まで 箱入り(箱から出した本体が特別な装丁となっている)